「クリエイティブ入門」 複層化するコミュニティの中で自分らしく生きたいすべての人に
面白い本は、息もつかず、あっという間に読んでしまう。ものすごく面白い本は、そんなわけにはいかない。ページをめくるたびに、言葉が身体に刺さる。その刃の重さに身じろぎして、体の化学反応収まるのを待って、ページをめくることになるので、やたら時間がかかる。この本は、そんな本だった。
著者の原野守弘さんは、電通、ドリル、PARTYを経て、現在は株式会社もりの代表をしておられる。NTTドコモ「森の木琴」やゴディバ「日本は、義理チョコをやめよう。」の広告で知られるクリエイティブディレクターだが、意外にもクリエイティブ畑一筋ではなく、34歳までは電通でメディアバイイングの仕事をしていたという。この本は「『ビジネスパーソン』や『クリエイティブ初学者』のための『クリエイティブ入門書』」。文章はとても平易で、難しい専門用語もない。
創造の3ステップは、チャート式にまとめると、こうなるという。
好きになる
好きを盗む
好きを返す
すごくシンプルだ。そして、ものすごく奥深い。詳しくは読んでほしい。震える。
偉大なブランドは、自分のことではなく、自分の愛するものについて語る。
圧巻。言葉に打ちのめされる。
これはクリエイティブに限った話ではないのだと思う。
先日、新しい会社のかたちをテーマに、何人かの人たちと話した。楽天の仲山学長、書籍編集者、医師でアート関係の活動をされている和佐野さんというメンバーだった。テレワークが普及して、毎日出社する必要がなくなり、コミュニティが重層化する中での働き方をいろいろ話した。
「仕事と遊びの境目がない」といい、複数のコミュニティを往来しながら、人をつなぎ、企画を形にしていくのを見て、そうした働き方を実現するために必要な力は一体なんだろうと思った。たぶん、資格などという話ではない、と思った。
この本を読んで、それも、好きになる力なんだろうなと思った。
これまでは、朝から晩までオフィスにいれば、半ば強制的にそのコミュニティに所属することはできた。何が好きとかはあまり関係なく。もしも、これから所属するコミュニティを自分で見つけて選ぶ時代がやってくるなら、「好き」を持っている人がすごく強い。どんなにニッチなテーマでもいいから「これが好き!!」という共感で人はつながるし、企画とは、人の好きが集まり、共振して生まれるもののはずだから。
そこまで考えると、そうした生き方そのものがクリエイティブなんじゃないかと振り出しに戻る。ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門書。この言葉は、実は、広告のクリエイティブをつくりたい人のためという意味ではなくて、自分らしく生きることをしたい人に向けたものではないかという気がしてくる。