『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』

『マッキンゼーをつくった男 マービン・バウワー』

「産業をつくる」には、どうしたらいいのだろう。この本を手にしたのは、そんな疑問を持った時だった。

マービン・バウワーは、タイトルの通り、世界的な戦略コンサルティング・ファーム、マッキンゼーをつくった男。ただし創業者ではない。

彼が入社した1933年、マッキンゼーの主な業務は、経営不振に陥った企業支援で、銀行や債権者委員会、取締役会のための調査を行なっていたという。

当時は、経営コンサルティングという言葉さえ誰も聞いたことがなかった。マッキンゼーが再出発したときのメンバーは15人。(中略)
30年代、40年代にはそんな職業は誰も知らなかった。かなり長いこと、経営コンサルティングは何かいかがわしいものだと思われていたみたい。たいていの人は、経営コンサルタントと聞くと、ああ、効率改善の鬼か、と言う。あれはほんとうにいやだった。

破綻企業の調査を通じて、バウワーは、CEOが十分な情報を持ってさえいれば会社は倒産せずに済んだはずだと考える。そして、CEOを助ける仕事の必要性を確信するようになる。

1939年、バウワーは3人のパートナーとともにマッキンゼーを買い取る。そして経営コンサルティングという職業について、明確なビジョンを掲げた。

当時のスタッフは18人だったが、バウワーが引退した1992年には2500名のコンサルタントを擁するプロフェッショナルファームとなった。経営コンサルティングという業種は、50万人を雇用する一大産業となった。

本に書かれているのは、経営コンサルティングという当時存在しなかった職業をどのようにバウワーが定義して、周囲を巻き込んでいったかということ。そして、その職業を通じて、どのように顧客に価値を提供していったかということ。

新しい職業をつくるには、ビジョン策定や組織開発の力はもちろん、優れたセールス力が必要だ。前例もないところで、自分たちの提供する価値を訴え、お金を出してもらう必要がある。個人としてはもちろん、従業員一人ひとりが価値を体現し、良い評判を生み出すようにならなければ続かない。

バウアーは組織や財務の問題について多数の論文を発表し、講演活動を行う一方で、クライアントとランチやゴルフを重ねた。職業規範をつくり、先頭に立った。

特に興味深いのは、第3章でマッキンゼーの組織開発や5つのビジョンについての解説。
「マッキンゼー式◯◯法」と題した書籍は巷にたくさんあるが、マッキンゼー自身がどのように組織と事業を開発してきたのかということは、強い説得力を持つ。

キャリアを考えるとき、私たちは、なるべく潰れない会社に就職しようと考える。あるいは資格を取ろうと考える。

それは既成の洋服を買うのと似ている。リーズナブルだし、気に入った洋服が見つかればハッピーになれる。ただ一方で、自分の着たい洋服を勝手につくったり、誰かにつくってもらう人もいる。

起業して、持続的に稼ぐ仕組みを手にする人。さらに産業そのものをつくり出してしまう人。

どちらが正しいという話ではなく、どちらの選択肢もあることを知った方がより自由に生きられるのだろうと思う。そして「産業をつくる」人の軌跡や方法論を学ぶことは、どんな生き方をするにせよ、人生の力となる。

『マッキンゼーをつくった男』