自分の「もろさ」を直視するところから友情が生まれる 『FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい』
「友達なんかいらない」。いまほど大手を振ってこう言える時代もないんじゃないかと思う。一人でも生きていけるし楽しめる。「おひとりさま」市場は拡大する一方で、選択肢には事欠かない。
そんな中、『FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい』という直球タイトルの本を読んだ。おひとりさま街道驀進中の人間(私)の胸をサブタイトルがえぐる。
第1章では、友情によって得られる利益について細かく説明されているが、友情についてよほど懐疑的な人を除いて、いったん読み飛ばしてもいいかもしれない。翻訳物によくある固有名詞と実験例てんこ盛りで、脱落する危険があるからだ。
面白いと感じたのは第2章以降で、「過去の人間関係が友情にどう影響するか」、「愛着理論」をベースに説明している。そして第3章以降、6つの具体的な実践方法が紹介されている。
愛着理論(中略)によると、人間のパターンは3つのスタイルに大まかに分けられます。これらを愛着スタイルと呼びます。
1. 安定型
2. 不安型
3. 回避型
それぞれの詳しい説明は本書をお読みいただくとして、私たちは、自分と親(養育者)との関係を土台として、愛着スタイルを発達させる。
・誰かが連絡をくれたときに、「ただその人が退屈あるいはさみしいからだ」と何の根拠もなく思い込むのは、愛着が原因です。
・友達とうまくいっているのに、今に何か悪いことが起きるのではないかとピリピリしてしまうのは、愛着が原因です。
・距離をおきたいという原因不明の強い衝動を抱くのは、愛着が原因です。
・「人は期待を裏切るだろう」とか、「こっちが弱っているときに批判してくるだろう」「支えが必要なときに拒絶するだろう」と決めつけるのは、
・「そもそも私は友達に好かれていない、と決めつけるのは、
・自分の強い面、明るい面、あるいは皮肉っぽい面しか人に見せないのは、
・自分をひどく扱う人との関係を続けてしまうのは、愛着が原因です。
P.112には友情における行動パターンを愛着スタイル別に分類した表があり、自分の主な愛着スタイルがわかる。
自分の主な愛着スタイルを念頭に置いて、第3章以降、具体的な実践方法を読み進めていく。ここで安定型だった人よりも、不安型、回避型となった人にとって、より役立つ内容かもしれない。さまざまな角度から書かれているので、気になる見出しを拾って読み進めるだけでもいいと思う。たとえば、
友達は、まずあいさつから
あなたはどんな人と友達になるべきか?
とことん弱っているときにだけ、経験できる関係がある
感情を我慢して押さえつけても、結局消えることはなく危険
自分を責めてしまうことが、より悪化させる
怒りは、表すことも我慢することも、どちらも人間関係を損なう
本当の友情のためには「いつ、だれに、気前よくなるか」を判断しなければいけない
自分が我慢して相手に尽くしている関係は、支配しあう関係と同じ
境界線はその友達によって変わる
自分が友達との境界を決めよう
・・・などなど。
特に第4章では、「もろさ」について一章丸々割かれている。「人生を取り戻せるのは唯一、もろさです。」と著者はいう。ただ、それは誰彼ともなく自分の弱みをさらけ出したり、感情をむき出しにすることではない。「自分が何にもろさを感じるかを知ることは、自分の価値観を知ること」だという。
自分を守ろうとして構築してきた防御メカニズムの下にある、本来の自己の姿」を認めることを、自分に許す。受容する。そのことで、自分を傷つけない人間と関われるようになり、相手を選んで自分のもろさを共有できるようになる。
もろくいることであなたは自分の価値観を守り、尊重することになるので、人からどんな反応があろうが、それでいいのです。
別のところでコミュニケーション専門家の方から伺ったお話では、いまリーダーシップに「Vulnerability(もろさ・脆弱性)」が求められているという。
組織がフラット化していくと、上から号令をかけるよりも、共感や傾聴、受容が組織におけるコミュニケーションのベースになっていく。そのとき、自身のもろさを直視できること、開示できること、他者のもろさを受容できることが大事になっていくということらしい。
これまで私たちは、周囲から認められたいと思って努力してきた。流行りのものを身につけて、コミュ力を高めて、教養も身につける。完璧な自分に近づくほど、その対価として承認と称賛を手に入れられるのだと。
自己研鑽はたしかに大事だが、その結果、厚い鎧を着込むようにますます孤独に陥ってはいないか。「こんなはずじゃなかった」という人生になっていないか。まずは「もろさ」を認め、許容してくれる友達を選んで楽しく過ごす。そんな努力の方向性が大事だと教えてくれる本。